ハルの祭典 - 2014.05.30 Fri

調査隊がこのオノノコの町の石化現象のことを植物学者に話すと、次のような答えが返ってきた。
「そうですか。もしかすると衝突のショックで船内のカビのサンプルが漏れ出たのかもしれません。あのカビはこの星では繁殖できませんし、十月十日もすれば浄化されますから、心配はいりません。
カビが消えたにもかかわらず人々が石になったままなのは、単に砂糖の力が強すぎ、塩分が少ないからです。海が甘いままなので、塩の持つ清めの作用がうまく働かないのです。砂糖による甘えた甘い幻想の力が強すぎると、塩の清めの作用が抑制されますから。
塩の力と砂糖の力との均衡をとるには、イネ科の植物を植えるのがいいのです。メンドーク星の「ハル」という植物の花は、特に強い効果を持っています」
調査隊がその花はどうやったら入手できるのかと尋ねると、
「この種は、どうしても必要な貴重なサンプルなのですが…」
珍しい植物なのだそうだが、宇宙船の礼として特別に「ハル」の種を分けてくれた。男が連れている少女が「ハル」の種なのだそうだ。
「この種を次の満月の夜にここに植えると、よい作用が生じるでしょう」
植物学者はラフレシアに乗って空の彼方へと旅立っていった。
市長は直ちに学者の言葉を実行するよう命令を出した。次の満月の夜、人々は花の種を海辺に埋めた。すると種から奇妙な身なりをした女が生えてきた。女は花粉をまき散らしながら踊り始めた。踊りながら女は着ているものを一つ一つ脱ぎ始めた。花粉の力にあおられ人々の石の体に生命力がよみがえり、生きる希望がよみがえった。霊的な生命が再生され、その場で生殖をおこなうものも少なくなかった。
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ラフレシアの飛行 - 2014.05.24 Sat

事態を重く見た市長は調査隊を形成し、町を調べさせた。調査隊が今では砂になってしまった海のあたりを調査していると、誰かが砂の海でうろうろしているのに出くわした。
それは男と奇妙な少女だった。男はガラスでできていた。調査隊がガラス男に話を聞いたところ、男は惑星メンドークから来た旅行者で、自分の宇宙船を探しているということだった。宇宙船に乗って地球の空を航行していたところ、奇妙な雪だるま型の隕石に衝突し、その衝撃で宇宙船と離れ離れになってしまったのだという。宇宙船は蝋で固めた花なのだそうだ。
「そういえば、市の遺失物保管所に、巨大なラフレシアの彫像があったような気がするが…」
確認すると、それはまさしくメンドーク星の宇宙船であった。
「助かりました。私はメンドーク星の植物学者でして、いろいろな植物を研究するために、星から星へと旅をしているのです。地球にやってきたのは、この星のカビのサンプルを採取するためでした」
面倒くさい都市 - 2014.05.18 Sun

昔オノノコの町に巨大な隕石が落下した。隕石は砂糖でできており、雪だるまの形をしていた。隕石は海に落下し、海を甘くした。
これと時を同じくして町に大量のカビ人間が発生した。カビ人間たちの言葉は町の人間には一言も分からなかったが、別に悪さをするわけでもなく有毒な物質が含まれているわけでもなかったので、人々は彼らのしたいままにさせておいた。
カビ人間の胞子がどんどん町中に蔓延していった。それを吸った人々にはある変化が現れた。もともとこの海辺の町の人間は気性が荒く、しょっちゅう喧嘩騒ぎを起こしていたのだが、そういうことがおこらなくなっていったのである。
その一方で人々は原因不明の無気力状態に陥っていった。何もする気にならない気持ちが極限まで達すると、その生き物は石になる。町では人も犬猫も草花も、それどころか魚まで石になった。
急激にさびれていく町を見たカビ人間たちはこのオノノコ町に見切りをつけ、もっと豊かな住みやすい土地へと移動していった。
カビ人間たちがいなくなってからも、人々の無気力と石化の病が治ることはなかった。
プリン押し海岸 - 2014.05.11 Sun

空には東十字星が光り、海底の玉手箱が過去の記憶をブクブクと吐き出す夜、人々は海辺の町に集まってくる。日本人、ヤマトスタン人、ウグイス人、グルメジャン人、ヤゴナバードのヤゴナ人、4大ドリア(アレキサンドリア、ミトコンドリア、オンドリア、エビドリア)の連中などが広場の中心の花粉を目当てにオノノコ町へとやってくる。
今宵は春の祭典なのだ。
海の風は古代エジプトの香りを運び、レバーを4回押すと流砂が滝のように流れる。花祭りの広場の中心では踊り子が花粉をまき散らしながら、踊りを一つ踊り終えるたびに着ているものを1枚ずつ魔法で消してゆく。
「花粉SHOW!」の喧騒がお城の向こうへ消えてゆき、遥か彼方の「メンドーク」の博物学を空気に溶かしてゆく。
城に何が住んでいるのか、誰も知らない。