鼻高々 - 2022.06.09 Thu

天狗界といふは己が小知に慢じて人を侮り、人の騒動するを悦び、是を以て是非得失の境をなして無事を楽しむことをしらず、欲する所を必として己を省みることなし。只己に従ふ者を是とし、己にしたがはざる者を非とす。世間の是非を己が我執のしがらみに留めて、彼を憎みこれを愛し、或いは怒り或いは困しむで、常に心のしづかなることなし。之を仏家に一日に三度熱湯を飲んで総身より火焔を生ずといふ。此煩熱の苦しみより種々転動して邪をなし人を害ふ。汝等よく心を修し気を収め、魔界を去り、人間に出て道を求むべし。汝等鼻ながく、觜あり翅あるを以て、人に勝れりと思つて愚人を誑かす。汝の長き鼻、尖れる觜、軽き翅は、却つて心を苦しめ人を害ふの器なり。
「天狗芸術論」佚斎樗山
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